給料という名前の麻薬はなかなか手放せない -高橋優太

どうも、高橋優太です。
今回はないものねだりは叶わないというお話をさせていただきます。

先日、上場企業の社長さんから「独立したいんだけど」という相談を受けました。
私よりもはるかに大きな会社の大黒柱が、息を吹きかければ吹き飛んでしまうような零細企業の会社の社長に相談することか?!と思いながら相談に乗っていたのですが、大手には大手なりの悩みがあるようです。

結論から言ってしまうと、その方は一生そのポストのまま定年を迎えるんだろうなと感じた。そんな話をさせていただきます。

大手企業には大手企業の悩みがある

先日、何年もお付き合いのある上場企業の社長さんと会食をしている時に、彼の口からポロッと「独立したいんだけど」という言葉が出ました。

色々と掘り下げて聞いていくと、どうやら今のポストに悩みを抱えているようです。

彼の悩みはこうです。
・ホールディングスで横並びにある法人が邪魔で自由に事業を拡大できない
・株主の顔色を伺う経営が辛い
・決済権があるようで無い

彼はホールディングスの中の1つの会社の社長を務めているのですが、いわゆる雇われ社長という身分に満足をしていないとのこと。
今の経験を活かして新たなことにチャレンジしたいというのが彼の悩みでした。

多分、彼を見て世の中の80%くらいの人間はこう言います。

「社長はいいよなぁ」

確かにもらうものはもらっていると思います。
年収で言ったら1000か2000か、もしくはそれ以上あるかもしれませんね。
そして重役出勤という言葉があるように、時間に縛られない生活をしていると思います。
仮に倒産や解雇されたとしても、関連会社や同業などで拾ってもらえる可能性は非常に高いです。

年収1000万円以上を稼ぐプレイヤーは、日本の労働人口のうち何%くらいいると思いますか?

答えはたったの5%です。
その5%の中に入っているにもかかわらず、贅沢な悩みを抱えているのです。

これはけしからん!!!

と、普通の方であれば思うと思いますが、TOP5%の高所得者が抱える悩みも大体分かっている自分からしたら「よくある」悩みです。
年収200万であろうが年収1000万であろうが、同じ日本という国の中で、同じ法律の下で、同じ町で息をしてる、同じ日本人です。
どんなに稼いでも稼いでいなくても、悩みはあるのです。

そしてその悩みの根本を見ていくと、案外年収200万も年収1000万も変わらないのです。

大手企業より非上場零細企業の社長の方が幸福度指数は高い

私は日本の労働人口のTOP5%に君臨する彼が、なぜその立場を捨ててまで組織から抜け出そうとするのか?
という部分に興味を持ち、掘り下げて話を聞き続けます。

辞めたい理由はわかりました。
でも分からないのは、辞めた後に何がしたいか?です。

あれやこれや夢を語っていただいたのですが、結局のところ「これ」といった明確なビジョンは見えていないように感じました。

どうやら、辞めたい理由である
・ホールディングスで横並びにある法人が邪魔で自由に事業を拡大できない
・株主の顔色を伺う経営が辛い
・決済権があるようで無い

この3つに当てはまらない組織に身を置きたい。もしくは自ら立ち上げたい。これが叶えば業種はこだわらない。ということのようです。

彼の人脈は本当にすごく、幅広いところに顔が効きます。
おそらく数々の経営者を見てる中で、非上場レベルの中小企業の社長が一番輝いて見えたのだと思います。
自分より弱小企業の社長が自分よりも輝いて見える。
これは嫉妬をしないわけはありませんね。

更に彼の経歴は幅広く、飲食やら美容、ファッション、貿易など、いろんな分野で活躍した実績を持っています。
これだけ多方面で経験を持っていたら「業種はこだわらない」と言うのも納得です。

この様々な業種の様々な規模の経営者との人脈を持った彼の目指す先には、私も含めた(含めてもらっていると願います)中小レベルの組織の中で常に輝いて見えるような社長の姿があるんだと感じました。

この「上場企業の社長より零細企業の社長の方が輝いている」という考え、これは120%正解です。
厳密に言えば上場企業よりも非上場企業の社長、ということになるのですが。

後者は何をやるも何をやらないも、決済権は完全に自分の手の中にあります。

株主と経営者が別の零細企業も存在しますが、上場企業ほど厳しくなく、細部までああだこうだ言われることはありません。
天下りのようなしがらみも無いので人事も自由に決められます。
営業日だって、自分の好きな日時に変更できます。
経費だって基本的には好きに使えます。
給与だって自分で決めれます。

もう少し具体的な話をすれば、上場企業の社長と非上場企業の社長が同じ年収1000万円だったとしましょう。

上場企業の社長が自由に決済できる経費枠はせいぜい年間2〜300万円くらいです。
でも後者の非上場企業の社長は0にも1000万円にも自由に調整可能です。
経費という言い方が分かりづらい方がいれば、「経費=税金のかからないお小遣い」だと思ってください。
年間2〜300万円のお小遣い制の社長と年間1000万円のお小遣い制の社長。
どっちが楽しいでしょうね?
なんなら、年収を300万円くらいに下げて国に払う税金を減らし、経費というお小遣いを1000万円使うことだってできます

これだけ見てもどっちの方が輝けるか?それは誰が見ても一目瞭然ですよね。
世の中の上場企業の社長さんより、非上場零細企業の社長さんの方が、圧倒的に幸福度指数は高いのです。

定年まで会社を辞めることがないと断定できる理由

冒頭にて、その方は一生そのポストのまま定年を迎えるんだろうなと感じたとお伝えしました。
これまでお話しした内容だけを見ても、それは思うことができます。

なぜそう断言できるのか?
さて、なぜでしょうか?
なぜこの社長さんは会社を辞めれないのでしょうか?

それは「辞める理由がない」からです。

え、辞める理由がない?
そんなことは無いでしょ、と。

彼が辞めたい理由は
・ホールディングスで横並びにある法人が邪魔で自由に事業を拡大できない
・株主の顔色を伺う経営が辛い
・決済権があるようで無い
だと、高橋さん2度も言っていたじゃないですか、と。
ここまでお読みいただいたあなたは、そう思ったと思います。

彼が辞めたい理由だと言って私に言ってくれた3つのこと。
これは辞めたい理由であって、辞めなくてはいけない理由ではないのです。

辞めたいというのは理由ではなくて願望です。
そして辞めなくてはいけないというのこそが理由です。

例えば、どうしても五十歳になるまでに成し遂げたいことがあるとか、どうしても家族が難病持ちで手術するのには今の年収の2倍を稼がないといけないとか、親の介護などの身内の事情で継続が困難になったとか。

何かを手に入れるためには何かを犠牲にしないといけないという局面が訪れて、2者を天秤にかけた結果、今あるものを手放すという決断を下す。
これくらいの極地に直面しない限り仕事を辞める、もしくは変えることはできません。
特に仕事に於いてはそうです。
何かで不労所得を得ている人は除き、ほとんどの方は仕事をすることによって生活の基盤になる給与を得ています。

給料とは麻薬と一緒です。

同じタイミングに同じ金額を受け取ってしまうと、それを当てにした生活スタイルになっていきますし、その金額に応じた水準が当たり前になります。
これが1ヶ月止まっただけでも、人生終わったかのように感じてしまいます。
不安で精神状態が不安定になり、色々なところに歪みが生じます。

そう、給料は麻薬なのです。

この給料という名の麻薬を年間1000万円以上もらっている人が、それを手放せるか?といったら、それはそれは大きな決断がないと手放すことはできないものです。
しかも給与だけではなく、世の中の80%くらいの人が羨ましがるような自由を持っているにもかかわらず、それを手放すことは、余程の覚悟をもってして決断しないとできません。

彼からはその覚悟が1mmも感じられなかった。
なので一生そのポストのまま定年を迎えるんだと思ったというわけです。

これはあくまでも「今のままだったら」という枕詞付き。
彼のことですから、次にお会いする時には誰が見ても成功すると思えるようなビジネスプランと覚悟を決めてすでに退職したか、する準備をしているか、そのどちらかかなと思っています。

あれ、もしかしたら既にそれは持ってるような気がしてきました。
そしてそれを私に感じ取らせないくらいの弱者を演じていたとか。

これを書きながら今ふと思いましたが、私がこのコラムを書くためのネタを提供してくれるために、わざと演じてくれたのではないか?とまで勘ぐります。
数々の修羅場を乗り越えて今の地位まで上り詰めた彼のことなので、全くノープランなわけはないんじゃないかと。

真相は聞かなければ闇の中。
彼の老婆心、彼からのネタのプレゼントだったと思うことにしましょう。

みなさんも、普段悩みを吐き出すことがあるかと思いますが、それは本当の悩みなのでしょうか?
悩みなのか、単なる愚痴なのか。それを理解した上で話をする(聞く)とまた別の角度で物事を見ることができるので面白いですよ。